【『シリンダー』とは(2024年ルール対応版)】~バスケの超難解なルール~

2024年7月21日:2024年4月1日施行の「2024 バスケットボール競技規則」にて確認。2023年版と比べて少し文言が変わっています。

2023年から審判ジェスチャー(シグナル)に「イリーガルシリンダー」が追加されたので、この機会に『シリンダー』についてまとめたいと思います。

シリンダーのルール自体が変わったわけではありませんが、審判ジェスチャー(シグナル)に「イリーガルシリンダー」が追加されたことによって、ファウルの理由がより具体的に示されるようになるという変更だと思います。

選手や観る側にとっては歓迎ですが、審判にとっては難しいジャッジですね。

『シリンダー』とは

『シリンダー』というのはそれぞれの選手が占有できる空間のことを意味します。

では、「占有できる空間」とはどういうことか、また、なぜそんなことを定義する必要があるのか、ということをまず説明します。

なぜ『シリンダー』という定義が必要なのか

バスケのファウルの大部分は選手同士のコンタクト(触れ合い)のときにコールされます。

コンタクトの際、審判はファウルが成立する3原則に則ってジャッジするわけですが、「シリンダー」の概念はその3原則の中の「コンタクトの責任」に深く関わります。

(1)「コンタクトの事実(コンタクトが起こっているということ)」

(2)「コンタクトの責任(どちらかのプレーヤーにそのコンタクトの責任があるということ)」
【コンタクトの責任の判断基準】 リーガルガーディングポジション、シリンダー、etc.

(3)「コンタクトの影響(そのコンタクトが、コンタクトを受けた相⼿プレーヤーのプレーに影響を及ぼしていること)」
【コンタクトの影響の判断基準】 R(リズム)S(スピード)B(バランス)Q(クイックネス)

JBA プレーコーリング・ガイドライン(20210301)”より引用

つまり「シリンダー」は選手同士のコンタクトがあった場合、どちらの選手のファウルになるのかを判断するための基準となる概念です。

「コンタクトの責任」の判断について

選手同士にコンタクトがあった場合、審判はそのコンタクトがどちらの選手の責任なのかを判断しなければなりません。

危険なプレーでなく、プレーに及ぼす影響も少ないケースでは、たとえコンタクトがあったとしてもファウルになりませんし、コンタクトの前にトラベリング(バイオレーション)があれば、そちらを宣告することもあるでしょう。このように実際のケースにおいて審判は複雑に絡みあう様々な要素を総合的に判断する必要があります。

これらの判断材料の1つとして「シリンダー」の概念が必要になってきます。

例えば、選手同士がコンタクトする際、動いている選手同士のコンタクトのほうが圧倒的に多いのですが、その場合はお互いの「シリンダー」が動いている状態ですので、どちらが「空間を占有したか」が確定しません。

どちらが「空間を占有したか」が確定しないため、その責任判断には、「シリンダー」よりもボールへのプレーであったかどうかや、手や足、身体の使い方などの要因が強く影響します。

一方、止まっているオフェンスの選手に対して、ディフェンスの選手がコンタクトした場合、あるいは、止まってるディフェンスの選手(リーガルガーディングポジション)に対して、オフェンスの選手がコンタクトした場合、つまり「どちらかの選手が占有した空間(シリンダー)」に侵入してコンタクトを起こした際にこの「シリンダー」の概念が重要な判断材料になります。

占有した空間(シリンダー)の範囲

では、「どちらかの選手が占有した空間(シリンダー)」は、どのぐらいの範囲なのでしょうか、競技規則に具体的な範囲が書かれていますので要約します。

ボールを持っていない選手のシリンダーの範囲

・正面は手のひらの位置まで。 (ただし、足や膝の位置を超えて伸ばしてはならない)
・背面は尻の位置まで。
・側面は腕と脚の外側の位置まで。
・この範囲の延長上にある上方の空間「バーティカリティ」の概念。(つまり、空中でのコンタクトもシリンダーの概念が適用されますよということ)

ボールを持っている選手のシリンダーの範囲

・正面は両足、曲げられた膝、腰より上でボールを持っている腕の位置まで。
・背面は尻の位置まで。
・側面は肘と脚の外側の位置まで。

2023年から導入された「イリーガルシリンダー」のジェスチャー

2023年4月から「イリーガルシリンダー」の審判ジェスチャーが新たに追加されました。

イリーガルシリンダー
両手、両腕を垂直に下げて上げる
2023年4月1日国内適用 バスケットボール競技規則主な変更点
引用元:JBA公式YouTubeチャンネル

イリーガルシリンダーが適用されるであろうケース※

※2023年3月現在、未だ適用ケースを見たことが無いので、あくまで推測です。

  • ドリブルを止めたオフェンス選手の軸足を挟んでプレッシャーをかけるときに生ずるコンタクト場面
  • スローインを貰うため、あるいは奪うために生ずるコンタクト場面
  • シュート直後のコンタクト場面

シリンダーの概念(“2024 バスケットボール競技規則” 「公益財団法人日本バスケットボール協会(JBA)」より)

33-1  シリンダーの概念

シリンダーとはコート上のプレーヤーが占める架空の円筒内の空間をいう。シリンダーの大きさ、あるいはプレーヤーの両足の間隔はプレーヤーの身長やサイズによって異なる。シリンダーにはプレーヤーの真上の空間が含まれ、ディフェンスのプレーヤーとボールを持っていないオフェンスのプレーヤーのシリンダーの境界は以下の通り制限される:

  • 正面は手のひらの位置まで
  • 背面は尻の位置まで
  • 側面は腕と脚の外側の位置まで

手や腕は、前腕と手がリーガルガーディングポジションの範囲で上がるように、腕を肘の位置で曲げた状態で前に伸ばすことができるが、足や膝の位置を超えてはならない。

オフェンスのプレーヤーが自身のシリンダーの範囲でノーマルバスケットボールプレーを試みているとき、ディフェンスのプレーヤーはボールを持っているオフェンスのプレーヤーのシリンダーの中に入って不当な触れ合いを起こしてはならない。ボールを持っているオフェンスのプレーヤーのシリンダーの境界は以下の通り制限される:

  • 正面は両足、曲げられた膝、腰より上でボールを持っている腕の位置まで。
  • 背面は尻の位置まで。
  • 側面は肘と脚の外側の位置まで。

ボールを持っているオフェンスのプレーヤーには自身のシリンダーの範囲でノーマルバスケットボールプレーを行うための十分な空間が与えられなければならない。ノーマルバスケットボールプレーには、ドリブルの開始、ピボット、ショット、パスが含まれる。
オフェンスのプレーヤーはさらなる空間を確保するために、自身のシリンダーを超えて脚や腕を広げて、ディフェンスのプレーヤーに不当な触れ合いを起こしてはならない。

シリンダーの概念図1シリンダーの概念図2シリンダーの概念図3シリンダーの概念図4

図6 シリンダーの概念

33-2   バーティカリティ(真上の空間の概念)

ゲーム中全てのプレーヤーは、相手チームのプレーヤーが占めていない位置であれば、コート上のどのような位置でも占めることができる。

この概念は、コート上にプレーヤーが占めた位置の権利およびそのプレーヤーが真上にジャンプする権利も含まれる。

自分のシリンダーから外れた空間で、すでに自分のシリンダーを占めている相手チームのプレーヤーと触れ合いを起こしたときは、自分のシリンダーから外れているプレーヤーにその触れ合いの責任がある。

ディフェンスのプレーヤーが、自分のシリンダー内でジャンプしたり手や腕を上げていて触れ合いが起こっても、そのプレーヤーに触れ合いの責任はなく、罰則が科されることはない。

オフェンスのプレーヤーは、コート上にいるときでもジャンプをして空中にいるときでも、リーガルガーディングポジションを占めているディフェンスのプレーヤーと次のような触れ合いを起こしてはならない:

  • 腕で相手チームのプレーヤーを払いのけたりして、自分に有利な空間をつくること
  • ショットの動作(アクトオブシューティング)中やショットをした後に、脚や腕を広げること
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